「偏見や先入観は持たないようにしよう」と思いながら、気づかないうちに持ってしまうのが偏見や先入観です。心理学では、このような思考や判断の偏りを「認知バイアス」と呼びます。認知バイアスは、人が「効率よく物事を判断するための心の働きから生じるもの」で、誰にでも起こり得るものです。
元々人間は、認知バイアスを持ちやすい傾向にあり、それを利用して勧誘や営業を行うケースもあります。例えば、投資詐欺や恋愛詐欺、悪質な商法などでは、人の心理が巧みに利用されることがあります。
情報を適切に見極めるためにも、認知バイアスを理解し、影響を小さくする方法を身につけたいものです。
認知バイアスとは?人間の脳が起こす考え方の問題

認知バイアスは、「認知」と「バイアス」という言葉が合体してできています。
「認知」とは、物事を認識し、理解し、判断するための心の働きを指します。また、知覚、学習、記憶、想像、思考、判断、推理なども認知に含まれます※1。
一方「バイアス」は、偏りや先入観という意味を持つ言葉です。
したがって認知バイアスとは、物事を認識したり判断したりするときに生じる偏りのことです。この偏りによって、思い込みに左右された判断をしてしまうことがあります。
論理的思考が妨げられ不合理な判断をしてしまう
認知バイアスは、判断を誤る原因の一つとされています。
例えば、自分の経験だけを根拠に判断して失敗するケースです。過去の成功体験を過度に信頼した結果、それが「正しいもの」だと認識してしまい、新しい情報や別の可能性を十分に検討できなくなってしまう場合があります。
先入観(思い込み)による影響
先入観とは、人や物事について十分な情報がない段階で抱くイメージや思い込みのことです。
先入観を持つと、その後に得た情報も先入観に沿って解釈してしまうことがあります。例えば、ネットで知ったニュースで「特定の国や人々が問題を起こした」というニュースを見て、その国に所属する人々がすべて問題である、というような判断をしてしまうケースです。
限られた情報だけで全体を判断してしまい、事実と自分の思い込みを混同してしまうことがあります。
なぜ相手が勝手に判断しているように感じるのか?
自分が持っている情報や考えは自分自身でよく理解していますが、相手がどのような情報をもとに判断したのかまでは分からないことがあります。
例えば職場で、上司や同僚の判断に対して「もっと良い方法があるのに」と思うことがあるかもしれません。しかし実際には、自分が知らない事情や都合を考慮した結果、その判断に至っているケースもあります。
相手は相手なりの情報や経験をもとに、「合理的だ」と考えて結論を出していることがあります。しかし、その判断に至るまでの過程が見えないため、自分の視点からは「勝手に決めている」「自分の都合で判断している」と感じてしまうことがあるのです。
根拠が薄く憶測でものをいう人はなぜ?
先ほどの先入観の話とも重なりますが、十分な情報がないにもかかわらず、確信を持って意見を述べる人もいます。「AはBだ」「●●さんはこういう性格だ」と断定的に話すケースです。
こうした発言は、本人が過去の経験や知識をもとに判断している場合があります。また、尊敬する人から聞いた話や、これまでに見聞きした情報を強く信頼していることもあります。
そのため、客観的な根拠が十分ではなくても、本人の中では筋が通っており、「正しい」と感じながら発言していることがあります。
認知バイアスはこのようなときに発生している
認知バイアスは、日常的に起きています。例えば、次のような例があります。
不都合な事実を自分に有利なほうにねじ曲げてしまう

ある出来事が起きたとき、自分にとって受け入れにくい事実を素直に認められないことがあります。
例えば、自分の操作ミスで自動車事故を起こしたにもかかわらず、「車の調子が悪かったのかもしれない」と考えてしまうケースです。
人は自分に不都合な事実に直面すると、その事実を軽く考えたり、別の理由を探したりすることがあります。その結果、自分の責任や失敗を過小評価してしまう場合があります。
心理学的には、「セルフ・サービング・バイアス」「認知的不協和」「自己正当化」といった概念で説明することがあります。
認知バイアスが「やらない理由」や「実行する理由」をつくってしまう

重要な意思決定をしなければならないとき、認知バイアスが判断を妨げることがあります。
例えば、大きな利益が期待できる一方で、大きな損失の可能性もある状況では、不安や恐怖から「失敗するかもしれない」という考えが強くなることがあります。その結果、実行しない理由ばかりを探してしまい、挑戦する機会を逃してしまうことがあります。
反対に、成功への期待や欲求そのものが強すぎると、都合の良い情報ばかりを集めてしまうことがあります。その結果、失敗する可能性を十分に検討しないまま、大きなリスクを取ってしまう場合があります。
このように認知バイアスの影響を受けると、自分が望む結論を裏付ける情報ばかりに注目し、反対の情報や意見を軽視してしまうことがあります。その結果、「やらない理由」や「実行する理由」を自ら作り出してしまうことがあるのです。
さまざまな認知バイアスの種類(錯覚や心理的効果)
心理学や行動心理学ではさまざまな形態の認知バイアスが研究されています。
いくつかのパターンを紹介します。
コンコルド効果
コンコルド効果とは、失敗する確率が高くなってきても、これまで費やしてきたコストを考慮して、行動を継続してしまう心理です。サンクコスト効果と言われることもあります。
コンコルドはイギリスとフランスが共同で開発した旅客機で、多額の費用と長い時間をかけて開発し、採算が取れないことがわかっても開発を止められませんでした。コンコルドは今はもう飛んでいません。
人は、過去に使った時間やお金を無駄にしたくないと考えるため、将来的な利益や損失ではなく、すでに支払ったコストに引きずられて判断してしまうことがあります。
ツァイガルニク効果
ツァイガルニク効果とは、完了した課題よりも、未完了の課題の方が記憶に残りやすい心理のことです。
ロシアの心理学者ツァイガルニクが、2つのグループに単純な課題を与え、一方にはその課題を達成させて、他方には妨害をして課題を達成させませんでした。そのあと両グループに課題について尋ねると、妨害されて達成できなかったグループのほうが課題についてよく覚えていました。
途中で中断されたプロジェクトや、やり残した課題が強く記憶に残っているのも、ツァイガルニク効果の一例です。
ダニングクルーガー効果(自信過剰効果)
ダニングクルーガー効果(自信過剰効果)とは、能力が低い人ほど、自分の能力を正確に評価する能力も不足しているため、自分を過大評価しやすいという現象です。
ハロー効果
ハロー効果とは、ある事柄に対する評価を、それとはまったく別の事柄への評価に使ってしまう現象です。
例えば、人気芸能人があるCMに出演してある商品をPRすると「よさそうだ」と感じてしまうのはハロー効果です。
人気芸能人がその商品を作ったわけではありません。しかし、その芸能人に好意や信頼を持っていると、その人がPRする商品まで高く評価してしまうことがあります。
確証バイアス
確証バイアスとは、自分が主張したいことに合致する情報だけを集めてしまう傾向のことです。
例えば「Aが正しい」と考えているとき、Aを正当化する情報だけを集めて、「だからAは正しい」と主張してしまうのは確証バイアスが働いているからです。
これは同時に、Aを否定する情報を排除する行動も起こします。確証バイアスが起きていると、Aを否定する情報に接しても「それは情報源があやしい」などと思ってしまいます。
AI利用でも同様に、自分の考えに合うAIの回答だけを採用してしまうことがあります。その結果、自分の考えをさらに強化してしまうことも確証バイアスの影響です。
自己奉仕バイアス
自己奉仕バイアスとは、成功したのは自分の能力や努力のおかげだと考えやすい心理です。自己奉仕バイアスが働いていると自分の貢献を高く評価し、周囲の環境や他者の影響を過小評価してしまうことがあります。
また、失敗したときに「自分ではどうすることもできなかった」と考えてしまうのも自己奉仕バイアスの一例です。失敗などのネガティブな結果が生じると、自分の責任よりも環境や運の悪さなどの外部要因に原因を求めやすくなります。
自分の自尊心(プライド)や自己評価を守るために生じる、心理的な傾向だと考えられています。
正常性バイアス
正常性バイアスとは、明らかに異常が起きているのに「大丈夫だ」「自分には関係ない」と考えてしまう心理です。
例えば、火事や地震などの災害が発生したときに、「自分は大丈夫だろう」「まだ避難しなくても問題ない」と判断してしまうケースです。実際に目の前で大きな問題が起きていないことを理由に、危険な状況を過小評価し、楽観的に捉えてしまうことがあります。
アンカリング効果
アンカリング効果とは、最初に与えられた数字を基準に物事を考えてしまう現象です。
例えば、自動車を買いにいったときに、最初に高級車を紹介されると、その価格を基準にしてしまうことがあります。先に400万円の車を紹介され、次に300万円の自動車をみせられると、本来の価値とは関係なく「安い」と感じてしまうことがあります。
アンカーとは船の錨(いかり)のことで、錨を下した場所から離れられなくなるという意味です。400万円という数字が基準になると、300万円は安く、500万円は高く感じやすくなります。
集団心理(群れのメンタリティ)
集団心理(群れのメンタリティ)とは、集団のなかの大多数の構成員がつくった思考や意思や感情に同調してしまう心理です。
「みんながやっているのだから間違いないはずだ」と思ってしまうと、自分の思考が停止してしまい合理的な行動が取れなくなってしまうことがあります。
例えば、SNSで有名人に対する批判が広がると、その内容を十分に確認しないまま同調してしまうケースがあります。このように、多数派の意見や行動に引きずられ、自分自身の判断を見失ってしまうのが集団心理です。
フレーミング効果
フレーミング効果とは、同じ内容でも表現方法によって判断が変わる現象です。
例えば、コップにジュースが半分入っていたとします。このとき「半分も残っている」と考えることも、「半分もなくなった」と考えることもできます。
また、「手術後の生存率は90%」と「手術後の死亡率は10%」は同じ事柄を言い表していますが、医師から前者のように説明されたほうが、手術を受ける人が多くなる、という実験結果もあります。
後知恵バイアス
後知恵バイアスとは、問題が発生したときに「そうなると思っていた」と思ってしまう心理です。
起こる前には予測できていなかったにも関わらず、後から問題の原因が判明すると、最初から原因を知っていたかのように感じてしまうのは、後知恵バイアスが働いているからです。
認知バイアスを回避するための方法

認知バイアスは、物事の見方や判断に偏りを生じさせることがあります。その結果、誤った判断をしたり、望ましくない結果につながったりする場合があります。
その影響は、人間関係や仕事、買い物、情報収集など、日常生活のさまざまな場面に現れます。
例えば、一度「この人は苦手だ」と思うと、その後の言動も悪い方向に解釈してしまうことがあります。一方、「この人は良い人だ」と思うと、問題のある言動を見過ごしてしまうこともあります。
認知バイアスの影響を完全になくすことはできませんが、その影響を小さくする方法はあります。ここでは代表的な3つの方法を紹介します。
- 認知バイアスを理解して、「自分には認知バイアスがある」と認める
- 「必ずそうなる」と思う根拠を考える
- 甘い話には警戒する
どれも重要なので1つずつみていきます。
認知バイアスを理解して、「自分には認知バイアスがある」と認める
上記で紹介した認知バイアスを知っておくと、自分がその影響を受けていることに気付きやすくなります。「今、認知バイアスが働いているかもしれない」と客観的に考えることで、判断を冷静に見つめなおすきっかけになるからです。
何かを判断するときには、「なぜそう考えたのか」「他の見方はないか」と考える習慣を持つことで、認知バイアスの影響を抑えることができます。
「必ずそうなる」と思う根拠を考える
認知バイアスの影響で問題になりやすいのは、自分の考えに合う情報だけを受け入れ、反対の情報を軽視してしまうことです。
そうした状態では、「きっとこうなるはずだ」「これが正しいはずだ」という考えが強くなり、別の可能性を十分に検討できなくなることがあります。
そんなときこそ「クリティカルシンキング(批判的思考)」の視点を持つことが大切です。自分自身のアイデアや発想に問題ないかどうかを検証してみることで、冷静な判断につながります。
甘い話には警戒する
ビジネスや勧誘などの場面で、「入会すれば成功する」「この事業はまだ知られていないが、将来性が高い」といった説明を受けることがあります。
このような話は、成功する未来を想像させることで期待感を高め、冷静な判断を難しくすることがあります。しかし、将来の成果を確実に保障することは誰にもできません。
このことを意識しておけば、相手からの説明だけで判断する状況を避けることができるようになります。
「認知バイアスを回避する」という意志が必要
心理学では、人間は認知バイアスの影響を受けやすい生物だと考えられています。これは、脳が「効率的に物事を判断しよう」とする性質から生じるものです。
経験が豊富で、何度も繰り返してきたことについては、深く考えなくても適切な判断ができる場合があります。
しかし、初めてのことや、よく知らないことについて判断するときは、「それは本当に事実なのか」という視点で確認してみることが大切です。意識して習慣化することで、認知バイアスの影響を受けにくくなります。
