【行動心理学】認知バイアスとは?情報弱者にならないための選択

【行動心理学】認知バイアスとは?情報弱者にならないための選択

「偏見や先入観は持たないようにしよう」と思いながら、気づかないうちに持ってしまうのが偏見や先入観です。心理学や行動心理学では、偏見や先入観のことを、認知バイアスと呼ぶことがあります。認知バイアスは脳のゆがみから起こる思考や認識のトラブルです。

元々人間は、認知バイアスを持ちやすい傾向にあり、それを利用して何かに勧誘しようとする人もいます。たとえば投資詐欺や、恋愛詐欺、ビジネス詐欺など色々なものが該当します。

情報弱者にならないためにも、認知バイアスを回避する方法を身につけたいものです。

目次

認知バイアスとは?人間の脳が起こす思考プロセスの問題

脳と心の心理学

認知バイアスは、「認知」と「バイアス」という言葉が合体してできています。認知とは、何かを認識、理解するときの心の働きのことです。また、知覚、学習、記憶、想像、思考、判断、推理などの働きを認知と呼ぶこともあります※1

バイアスは、偏見、先入観、傾向、データの偏りです。したがって認知バイアスとは、何かを理解しようとするときに起きる思考の偏り(ゆがみ)、といえます。偏って情報を理解してしまうと、思い込みによって物事が進んでしまう可能性がでてきます。

※1 コトバンク「認知」の解説より

論理的思考が妨げられ不合理な判断をしてしまう

認知バイアスは、直感や先入観、願望、経験、他人の影響などから論理的な思考が妨げられ、不合理な判断をしてしまうこと※2、と理解されることがあります。

例えば、自分の経験から得た知見だけで判断して失敗するのは、認知バイアスのせいと考えることができます。過去の成功体験や経験を過度に信頼してしまい、論理的な思考や合理的な判断ができなくなってしまうのです。

※2 野村証券 証券用語解説集より

「認知バイアスを回避する」という意志が必要

心理学では、人の心理が認知バイアスを起こしている※3と考えられています。人間の脳が自発的に認知バイアスを起こしているのです。

人間には認知バイアスを持ちたがる性質が備わっているため、これを遠ざけるには「認知バイアス」について理解し、回避する方法を知っておくことが大切です。

※3 夢ナビ 講義No.11952より

認知バイアスはこのようなときに発生している

認知バイアスは、日常的に起きています。たとえば、次のような例があります。

不都合な事実を自分に有利なほうにねじ曲げてしまう

事故を起こしたときの心理状態

ある事件が起きたときに、「いや、そんなはずはない」と事実を否定してしまうことがあります。

例えば、自分の過失で自動車事故を起こしてしまったとき、操作ミスという事実があるにもかかわらず、「自動車が勝手に動き出した」と思ってしまうのは認知バイアスのせいです。

これは「自動車は誤作動を起こすことがある」という知識を使って、自分に不都合な事実を、自分に有利なほうにねじ曲げようとしているのです。

認知バイアスが「決断しない理由」や「決断する理由」をつくってしまう

ギャンブルや行動しない理由の正当化

重要な意思決定をしなければならないとき、認知バイアスがそれを妨げることがあります。

成功すると大きな利益が得られるが失敗すると大きな損失を生むハイリターン・ハイリスクの状況下において、心理的な重圧が認知バイアスを生むことがあります。その結果「このケースはどうせ失敗する」と考えて、実行しない理由を探してしまいます。

認知バイアスにより、失敗する理由だけを好んで集めてしまい、最終的に心地よい状態になるように判断してしまいます。

もちろん逆のことも起こります。失敗するリスクが大きいにも関わらず、確率が低い大成功に賭けて実行してしまうケースです。これは認知バイアスによって、成功する理由だけを集めて、失敗する理由を集めない行動を取ってしまうからです。

さまざまな認知バイアスの種類(錯覚や心理的効果)

心理学や行動心理学ではさまざまな形態の認知バイアスを研究しています。
いくつかのパターンを紹介します。

コンコルド効果

コンコルド効果とは、失敗する確率が高くなってきても、これまで費やしてきたコストを考慮して、行動を継続してしまう心理です。

コンコルドはイギリスとフランスが共同で開発した旅客機で、多額の費用と長い時間をかけて開発してきたので、途中で失敗するとわかっても開発を止められませんでした。コンコルドは今はもう飛んでいません。

ツァイガルニク効果

ツァイガルニク効果とは、達成したことより、挫折したことのほうが強く印象に残る心理のことです。

ロシアの心理学者、ツァイガルニクが2つのグループに単純な課題を与え、一方にはその課題を達成させて、他方には妨害をして課題を達成させませんでした。そのあと両グループに課題について尋ねると、妨害されて達成できなかったグループのほうが課題についてよく覚えていました。

子供のころ親に「やるな」と止められたのにやってしまった遊びのほうが強く記憶に残っているのも、ツァイガルニク効果の1つです。

ダニングクルーガー効果(自信過剰効果)

ダニングクルーガー効果(自信過剰効果)とは、自分の能力を過大評価してしまう心理です。これは能力が低い人ほど起こしやすいとされています。

ハロー効果

ハロー効果とは、ある事柄に対する評価を、それとはまったく別の事柄への評価に使ってしまう現象です。

例えば、人気芸能人があるCMに出演してある商品をPRすると「よさそうだ」と感じてしまうのはハロー効果です。人気芸能人とその商品の間には因果関係がないため、その人気芸能人がPRしていても、その商品がよいという保証はどこにもありません。しかし人気芸能人のことを高く評価していると、その人がPRする商品も高く評価してしまうことがあるのです。

確証バイアス

確証バイアスとは、自分が主張したいことに合致する情報だけを集めてしまう傾向のことです。例えばAと主張したいとき、Aを正当化する情報だけを集めて、「だからAは正しい」と主張してしまうのは確証バイアスが働いているからです。

これは同時に、Aを否定する情報を排除する行動も起こします。確証バイアスが起きていると、Aを否定する情報に接しても「それは情報源があやしい」などと思ってしまいます。

自己奉仕バイアス

自己奉仕バイアスとは、成功したのは自分の能力のおかげである、と考えてしまう心理です。自己奉仕バイアスが働いていると自分しか観察しないので、他の要素を考慮することができなくなります。

また、失敗したときに「自分ではどうすることもできなかった」と考えてしまうのも自己奉仕バイアスです。自己奉仕バイアスでは、失敗などのネガティブな状況が発生すると、自分以外の他の要素だけを観察、考慮するようになります。

正常性バイアス

正常性バイアスとは、明らかに異常が起きているのに「正常といえる」と認識してしまう心理です。

例えば投資において、100万円の損失が出たら撤退しようと決めていたとします。しかし101万円の損失が出ても「1万円は誤差の範囲」と考えて投資を続けてしまうことがあります。せっかく異常値を設定したのに自らそれを無視してしまうのは正常性バイアスが働いているからです。

アンカリング効果

アンカリング効果とは、最初に与えられた数字を基準に考えてしまい、あとから与えられる数字を無視してしまう現象です。

例えば、自動車を買いにいったときに、営業担当者に最初に高級車を紹介されると、その価格を基準にしてしまうことがあります。500万円を基準にしてしまうと、次に300万円の自動車をみせられると「安っぽい」と感じてしまいます。

アンカーとは船の錨(いかり)のことで、錨を下した場所から離れられなくなります。

集団心理(群れのメンタリティ)

集団心理(群れのメンタリティ)とは、集団のなかの大多数の構成員がつくった思考や意思や感情に同調してしまう心理です。「みんながやっているのだから間違いないはずだ」と思ってしまうと、自分の思考が停止してしまい合理的な行動が取れなくなってしまいます。

暴動を起こすような人でない人が暴動に加わってしまうのは集団心理が働いたと考えられます。

フレーミング効果

フレーミング効果とは、1つの事実に対して複数の理解が生まれる現象です。

例えば、コップにジュースが半分入っていたとします。このとき「半分も残っている」と理解することも「半分もなくなった」と理解することもできます。

また、「手術後の生存率は90%」と「手術後の死亡率は10%」は同じ事柄を言い表していますが、医師から前者のように説明されたほうが、手術を受ける人が多くなる、という実験結果もあります。

後知恵バイアス

後知恵バイアスとは、問題が発生したときに「そうなると思っていた」と思ってしまう心理です。問題の原因が判明すると、あたかもその原因を事前に知っていたかのように感じてしまうのは、後知恵バイアスが働いているからです。

認知バイアスを回避するための方法

認知バイアスによる間違った行動

認知バイアスは間違った認識や事実と異なる理解を生むので、そこから派生した行動も間違ったほうに向かいやすく、失敗や損失、迷惑を生みやすくなります。

そして悪意ある者たちは認知バイアスを利用して、自分よりも特定の分野における知識レベルの低い相手(情報弱者)をだまそうとします。

例えば、言葉巧みに10万円の投資をさせて、それで損をさせ、「ここで投資をやめたら10万円を捨てることになる。あと50万円投資すれば倍になるので損失を取り戻せるうえに利益も出る」などと言います。

認知バイアスを回避する方法があります。それは次の3つです。

  • 認知バイアスを理解して、「自分には認知バイアスがある」と認める
  • 「必ずそうなる」と思う根拠を考える
  • 「うまい話はない」と覚えておく

どれも重要なので1つずつみていきます。

認知バイアスを理解して、「自分には認知バイアスがある」と認める

上記で紹介した複数の認知バイアスを知っておけば、自分がその心理に陥ったときに「今、認知バイアスが働いている」と認識することができ、思考を修正するきっかけになります。

そして認知バイアスの誘惑に対して、「自分にも認知バイアスがあるはずだ」と冷静に考えることができるようになります。そのように認めておけば、都合のよい考えや、楽ができる考えが浮かんだときに「今の精神状態は正しいか?」と客観的に疑うことができます。

「必ずそうなる」と思う根拠を考える

認知バイアスで問題になるのは、都合のよい情報だけを仕入れて、都合の悪い情報を拒否してしまうことです。都合のよい情報が増えると「そうであってほしい」という欲求が強まり、事実を捻じ曲げて行動しやすくなります。そんなときこそ「クリティカルシンキング(批判的思考)を使い、その事象に対して反論検証し、深く物事を考えてみましょう。

多極的に物事を見ることで、公平性の高い冷静な判断ができるようになります。

「うまい話はない」と覚えておく

小さな事柄で認知バイアスが働いて失敗しても、損失はそれほど大きくないので、あまり問題になりません。

そのため、認知バイアスが問題になるのは大きな決断のときです。成功すれば大きな利益が得られ、成功する確率が高いことを示す情報があったとき、「そんなに簡単にうまくいくのだろうか」と検証する必要があります。

簡単に大成功を収められる話は存在しません。このことさえ覚えておけば、認知バイアスの誘惑を断ち切ることができるでしょう。